「出会い」
この本のキーワードをひとつだけ挙げるとすればこれしかないと思います。
さかなクンは「出会い」でできていました。
目次
人と出会い、魚と出会い
幼魚時代(幼少期)のエピソードからはじまる本書。とにかくいろんな人や「好き」との出会いがさかなクンの人生を形作っていることがわかります。
トラックに夢中だった幼稚園時代、近所に止まっているダンプトラックの荷台に勝手に登ってあそんでいたさかなクン。戻ってきた持ち主のおじさんは言います。
「ぼうや、そんなに好きなのか。転ぶなよ。」
そう言うだけで、降りなさいともやめなさいとも言いませんでした。それどころか特別に運転席にも座らせてくれ、荷台の動かし方まで教えてくれたのでした。
タコとの劇的な出会いを経て訪れた近所の魚屋さん。
はじめて見る本物のタコにクギづけになっていると、お店のおじちゃんが声をかけてきました。
「へい! いらっしゃい。ボクはなにを買いにきたんだい?」
トラックのおじさんも魚屋のおじちゃんも、さかなクンを叱ったり邪険にすることなく、ひとりの人間として扱っています。このことがさかなクンに与えた影響はとても大きい。
- 好きなものを見つけるさかなクン自身の力
- それを後押しするまわりの人との出会い
このふたつがあのキャラクターを生み出す原動力になったのは間違いありません。
興味深いのは、まわりの人は別にさかなクンをほめたり持ち上げたりしたわけじゃないところ。さきほどの魚屋さんも「ボク、ひとりでおつかいに来たの? えらいねぇ」ではないんです。
アドラー心理学でいう「横の関係」による「勇気づけ」に通ずるものがあります。おじさんたちの言葉はさかなクンを大いに勇気づけてきたことでしょう。
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さかなクンのお母さんの子育て法
本書で語られるエピーソードのなかで、さかなクンの「好きになると一直線」*1っぷりと同じくらいの強烈なインパクトを放つのがさかなクンのお母さん。
ポイントは3つ。
- 「好き」を受け入れる
- 「好き」を見守る・手を貸さない
- 「好き」をサポートする
1.「好き」を受け入れる
家庭訪問で先生から、絵だけでなく学校の勉強もやるよう家庭で指導してほしいと言われたお母さん。
「あの子は魚が好きで、絵を描くことが大好きなんです。だからそれでいいんです。」
さらにこの後も強烈なセリフが続きますが割愛。
好きだからそれでいい。
これを先生に言うのはめちゃくちゃハードルが高い気がします。
好きなものを否定されないこと。そのまま受け入れてもらえることはこどもにとって幸せなことですよね。
2.「好き」を見守る・手を貸さない
魚屋さんのマネをして、水を流しながら魚をさばいてみるさかなクン。家族で食べてみますが、ビショビショのお刺身はおいしくありません。
新鮮なお魚をお刺身にしたらおいしいはずなのに、どうしてこうも味がしないんだろう……。頭の中は「?」だらけでした。
けれども母は、なにも言いませんでした。きっと、なにごとも自分で経験して学んでほしいと思っていたのだと思います。
こどもの見守りは本当にむずかしい。
自分でやらせたほうがいいとわかっちゃいるんだけど……という親御さんも多いのではないでしょうか。
失敗体験、それを繰り返して得られる小さな成功体験。これの積み重ねが大きな力になることは言うまでもありません。
さかなクンは幼魚のころから、さらには大人になってもこれを繰り返してきました。本書を読み進めるとその経験がどれもムダではなかったことがわかります。
3.「好き」をサポートする
前述の通りタコに夢中なさかなクン。
夕食は毎日のようにタコをおねだり。それでも母はイヤな顔ひとつしませんでした。それどころかお刺身、煮込み、酢の物など味付けを変えて1か月ほども毎日、タコ料理を作りつづけてくれたのでした。
えええ……1か月毎日タコ料理て……。*2
ここまでのサポートはなかなかできるもんじゃありませんが、「好き」の幅を広げるためのサポートはしていきたいですね。
夢中になると大人でも視野が狭くなります。こどもならなおさら。
一直線のこどもに別の選択肢や視点を見せてあげることで「好き」は広く・深くなるでしょう。
おわりに
お母さんの教育法(というかさかなクンとの関わり方)は容易にマネのできるものではありませんが、どれも大切ですよね。
とは言え、
「受け入れ」「見守り」「サポート」
どれも特別なことではなく、むしろ子育て・教育法としては定番中の定番であるとも言えます。
自分なりの「受け入れ」「見守り」「サポート」を見つけていきたいものです。
「そもそもさかなクンみたいにひとつのものにハマるのがムリ」
という風に思う方もいるかもしれません。
実はさかなクン、夢中になったのは魚だけではありません。
それどころか、二転三転、四転五転。
さかなクンは人だけでなく、いろんな「好き」と出会ってたんですね。
さかなクン自身もこう言っています。
途中でスーッと気持ちが冷めてしまうこともあるかもしれないし、まったく別の道を歩むことになるかもしれません。それでもいいと思います。
夢中になるものが変わってもいい。いまの好きを大切にしたい。
そういう大きな気づきをもらえるステキな本でした。
夢を持つすべての人におすすめできる本です。
自分のこどもにも読ませたい。
読むとさかなくんがもっと好きになります。そしてテレビのキャラクターとはちょっと違う、夢中になることの力を教えてくれる、ステキなお兄さんとしてのさかなクンに出会えますよ。