プロローグ
ジリジリと太陽の照りつける東京下町の水遊び場。
長女(3歳)と遊んでいると、その轟音が響き渡った。
「きぃぃぃぃああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
シン・ゴジラ(推定5歳)、襲来
それは紛うことなき、ゴジラの鳴き声であった。
男児(推定5歳)がゴジラになりきっている。ゴジラらしい悲壮な面持ちで一歩いっぽ歩を進めていく。ただし彼の足元に広がるのは東京の街並みではなく、水遊び場だ。
想像してみて欲しい。ゴジラの鳴き声は人間がマネできるシロモノではない。
だが彼にはできるのだ。変声期前の男児特有のハイトーンと太さを兼ね備えた声。彼にしかできないその鳴きマネにわたしの魂は震えた。
(う、うるせぇ・・・・)と。*1
そして彼は延々と、淡々と、ゴジラのマネを続けるのである。
敵、現る
ゴジラの存在にも慣れ、娘とまったり水遊びしていたときのことだ。やつらは急に現れた。
小学校1年生の男子たちである*2。ゴジラとは初対面のようだ。
男子A「おいゴジラ、鳴いてみて」
ゴジラ「きぃぃぃぃああ・・・」
すると男子A, B, Cが鳴こうとするゴジラの口へ水鉄砲を連射した。
ゴジラ「うっぷ・・・」
ゴジラ、ピンチである。男子どもは攻撃の手をゆるめない。年下のゴジラに複数人で執拗に嫌がらせをする。
そのときゴジラ母と小学生男子軍団母
ゴジラ母は状況を把握している。心配そうな表情ながらも少し離れたところで見守っている。
小学生男子母たちはおしゃべりに夢中だ。ほろよい(低アルコールのお酒)を飲んでいる。ほろよいなのであろう。
どうするゴジラ。もう5分近く絡まれている。そろそろ母に助けを求めたほうがよいのでは・・・。
5歳のゴジラは強かった
だがゴジラは強かった。
絶対にゴジラのマネをやめない。「鳴いて」と言われては水をかけられ、「ゴジラやって」と言われて笑われる。
でもゴジラはやめなかった。
(彼は絶対に手を出さなかったことも申し添えておこう)
ここでわたしは気づいた。
「ゴジラのマネをしているんじゃない。彼はゴジラなんだ」
そして・・・
しばらくして気が付くとゴジラは人間に戻り、男子軍団と一緒に遊んでいた。
「彼は勝った」
完璧なまでの勝利だ。 彼はプライドに賭けて自分の中のゴジラのイメージを守り通した。ゴジラは強い。ゴジラは泣いたり助けを求めたりしない。*3
ゴジラ本人と最後まで忍耐強く見守ったゴジラ母に最大の賛辞を送りたい。
わたしならゴジラでいつづけられただろうか。たぶん速攻で「お母さ〜ん(泣)」だろう。
わたしなら最後まで見守れただろうか。たぶん「あっちで遊ぼう」といってその場を離れさせただろう。
男子の、特に複数人集まった時の邪悪さや好戦性はある程度しかたないことだと思う。この程度でいちいち親が口をはさむべきじゃない(もちろん人の嫌がることはしてはいけないと教えるけれども)。
わが子もゴジラ側・男子軍団側どちらの経験もしていくと思う。もしその場に居合わせることがあったら、この最強のシン・ゴジラ親子を思い出したい。